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  • 執筆者の写真kachirou kano

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更新日:2023年5月3日

東方projectシューティングゲームに関する、特定集団におけるツール使用についての検討 ――身近な作品の調査を中心として――



0.はじめに

 先日せっせと新しいアカウントをフォローしていると、とあるbotのツイートが目に留まりました。ツイートの内容は下記の通りで、何やら不穏な雰囲気を感じました。調べればすぐ判ることですが、アカウント名は伏せておくことにします。ツイートに出てくる各々の単語はぼんやりと聞き覚えがあるものの正確には把握していませんでした。調べれば何か面白いカルチャーが見つかりそうに思われ、興味を持ちました。単語やそれにまつわる情報を集める中で考えた事柄を、下記に記していきたいと思います。



1.各用語について

 上記のツイートを契機に興味を持ち、「Touhou World Cup」「LNNスレ」「thprac」について調べてみました。わかったことは下記の通りです。

Touhou World Cup:略称をTWCといい、東方STGの大会のようです。Twitterに公式アカウントがあり、公式HP(1)も存在します。公式HPによると2020年に始まり、年1回開催されているとのことです。各所の記載や企画者の表記が英語であるため、日本国外の方が企画されているイベントと思われます。どこかで聞き覚えが有ると思ったら、実は狩野製作所の同人誌が2021年のTWCで景品として配布されていたことを思い出しました。その節は、流星計画様に大変お世話になりました。海を渡った同人誌たちは、元気にしているのでしょうか。1件同人誌を受け取った方らしきツイートがみつかり、大変嬉しく思ったものです。

LNNスレ:Eientei Forumsというウェブサイト(2)にあるページ「Touhou LNN/LNNN thread!」を指す単語のようです。LNN(東方STG用語で、難易度Lunaticをノーミス(NM)かつノーボム(NB)でクリアすること)をしたプレーヤーの名前や、リプレイファイルのリンクが記載されています。自主的に情報を収集・記録しているようで、狩野の名前も記載されていますが、過去に許諾を求められたことはなかったと思います。何かしら一般に判るような形でLNNを示してこのページの編集者の目に留まれば、名前が加えられるということでしょう。

thprac:Maribel Hearn's Touhou Portalというウェブサイト(3)にあるページ「Touhou Patches and Tools」に多数列挙されている東方STGの外部ツールの1つのようです。ちょっと怖いのでダウンロードはしていませんが、githubの説明を見る限り、ツールは東方STGのプログラムと独立して動作し、プログラムの動作を変更するようです。任意のステージ(最初からでも、途中からでも可)、任意のライフ数・ボム数、任意のパワーなど相当に細かい要素を指定して動作させることができるようです。


2.ツイート内容の真偽について

 さて、これらの情報をもとに先のツイートの内容について考えます。このツイートは「TWCやLNNスレに参加するプレーヤーの多数がツールを用いている」ことを批判的に記していると考えられます。ここで検証すべき事は「TWCやLNNスレに名前があるプレーヤーの多数がツールを用いる」が事実であるか、またそれらの場所でツールが用いられることが批判に値する事なのかという点です。

 まずここでいう「ツール」とは、東方STGのプログラム(th10.exeなど)に内部・外部から影響し、正常な動作とは異なる動作を意図的に起こすプログラムである、と定義しておきます。またツールの中には、本来するはずの正常動作の復元を目的とするものと、本来しないはずの異常動作を目的とするものがあります。前者は原作者から配布される修正パッチを含んだ、OS更新やソフトウェアの相性によって正常動作が得られない状態をツールにより正常動作に近づけようとするものです。後者はツール無しで正常動作が得られていた状態から、何らかの目的(多くはプレーヤーにとって有利な状況を作ること)のために異常な動作を生じさせるものです。下記では主に、後者のツールについて考えていきます。

Q.「TWCやLNNスレに名前があるプレーヤーの多数がツールを用いる」は事実か?

 これらに名前が出てくるプレーヤー全員についてチェックするのは大変なので、まずは身近な作品である妖精大戦争について調べてみました。TWCには妖精大戦争の部門があり、丁度7月2日と7月3日に競技が行われたようでした。出場したプレーヤーは計4人おり、配信サイトのアーカイブ等から全員についてthpracの使用が確認できました。LNNスレの妖精大戦争部門に名前が掲載されているプレーヤーは25人いましたが、配信サイトやSNSのアカウントを確認できないもの、動画や配信アーカイブが無くツール使用の有無が確認できないものがあり、全員については調査できませんでした。またthpracはツールの中では比較的後発にあたるようで、調べると2020年5月に作成者によるチュートリアル動画がアップロードされていました。つまりそれ以前には別のツールが存在するため、それらの古いツールも考慮する必要がありました。調査の結果として、LNNスレに名前が記されているプレーヤー25人のうち9人(36%)が、過去にツールを使用していたと判りました。全体の3分の1となると、多数とはいえないでしょう。以上から、妖精大戦争に関しては「TWCに出場するプレーヤーの多数がツールを用いる」「LNNスレに名前が出るプレーヤーの中にツールを用いる者はいるが、多数ではない」と考えらます。


3.批判の理由について

 上記のツイートではツールを用いるプレーヤーに対して批判的に思われる表現がありますが、なぜツールを用いることが批判されるのでしょうか。先程定義したように、ここでいうツールとは正常な動作とは違う動作を意図的に起こすプログラムのことです。対人ゲームならば、ツールを用いて対戦で有利な状況を作ることができるため、対戦の公平性が損なわれます。またオンラインゲームならば、有償のアイテムを不正に獲得すれば、運営会社に経済的損害を与えることになるでしょう。東方STGについて考えると、花映塚以外の作品は1人プレイであり、オフライン環境で動作するゲームになります。よって直接対戦する競技の公平性や、オンラインで取引を行うデータの改変にまつわる問題は生じません。そこで東方STGでツールを用いることが批判されうる理由を、下記の通りに考えてみました。参考にしたページのURLを示します(4)。念のため言っておきますが、下記の理由①~③は狩野がそういう批判をしているのではなく、批判するとしたらこう、という理由を考えてみましたという事です。どうか悪しからず。

理由① 間接的に対戦の公平性を損ねる:上記のTWCもそうですが、STGプレイ自体はオフラインでも、スコアを含めたプレイ内容をオンラインで共有・比較することにより、間接的に対戦の形式を作ることができます。またSTGは練習によるパターンの会得とその再現がプレイの軸となるため、練習の効率がプレイの精度や成績に直結します。そのためツールを用いた効率のよい練習を行うプレーヤーが、ツールを用いないで練習したプレーヤーよりも有利な状況を、間接的に作ることができます。ツールの使用が、間接的な対戦の有利・不利を間接的に左右するということです。対戦するだけで勝ち負けに価値がないのならば有利でも不利でも構わないのでしょうが、対戦の勝ち負けに何かの意義を見出すのならば、ツールの存在が対戦の公平性、ひいては対戦の価値そのものを損ねてしまうのではないでしょうか。

理由② 間接的に対戦環境を変える:これも対戦に関する理由となります。いまSTGで対戦を行う集団があるとします。その中で1人がこっそりツールを用いて有利に対戦を行っても、それを検証・発見するのは難しく、プレーヤー全体への影響は大きくないと思われます。しかし多数のプレーヤーが一様にツールを用いる状態になると、更に多くのプレーヤーがツールの存在を知るようになり、より有利に対戦を行うためにツールを用いることが、集団に属するプレーヤーにとって標準的になっていくことが予想できます。集団内での標準が変わっていく、いわゆるニューノーマルということですね。

理由③ 作品を破壊する:東方STGは、原作者であるZUNさんが作成したプログラムであり、ZUNさんが意図した通りに動作するデータの集合です。個々のデータや、実際にデータが動作し描出される映像があつまり、1つの作品として完成しています。ツールを用いて本来の意図に沿わない動作をさせるというのは、ゲームという作品を壊しているといえます。破壊というと大げさかもしれませんが、すでに完成した絵に、その上から色を塗ったり文字を書いたりする行動と同じようなものです。過度になればその作品は全く本来の姿とは違うものになってしまいます。2012年にスペインでキリストを描いた絵画を素人が修復しようと加工した結果、修復後の絵画は全くオリジナルとは異なる有様となったという事件がありました。(5) その行為は批判の対象となった訳ですが、作品とそのオリジナリティに価値が有ると考える人々が、それらを損なったことに対する批判をしたものと思います。ツールにより作品を加工・改変することへの批判は、似た意味を持つのではないでしょうか。ちなみに件の絵画は修復後の様相があまりに悲惨で「モンキー・キリスト」などと呼ばれた結果、話題性が高まり観光客が増えて、むしろ大きな収益をもたらしたとのことです。(6)


4.批判の妥当性について

 上記に示した理由のいずれに関しても、ツールの使用者が他者に直接影響を及ぼした結果生じるものではなく、観念的・抽象的な内容です。それは本来東方STGが、花映塚を除き対戦ゲームではないので当然といえるでしょう。直接の不利益を被っていない事への批判には、「〇〇が迷惑だからやめてほしい」という具体的な苦情ではなく、「〇〇は△△であるべき」という理想論・規範意識が根底にあるのかもしれません。上記のツイートはつまり、TWCやLNNスレといった東方STG上級者の集団あるいは個々のプレーヤーに対して、そういった理想論を述べているのでしょうか。

 抽象的な批判は、個人の価値観によって賛否が分かれてしまうため、妥当性を検討することができません。批判された集団の内部で意見を募れば、当然批判への批判や反論が出てくることでしょうし、批判する側から意見を聞けばその逆の事が起こるでしょう。ただ確かな事は、特定の集団やイベントにおいて定められたルールが有るならば、ルールに違反する者への批判は妥当であろうということです。ツイートに記されたTWCとLNNスレについて規則や規定を探してみたところ、TWCではルール内で明確にツール使用が認められていましたが、LNNスレの当該ページには明記されていませんでした。ルールに則って考えれば、TWCでのツール使用は問題なく、LNNスレでは現状判断できないということになります。結論として、上記のツイートがツール使用に対する批判であったとして、その批判は妥当なものとは言えないと考えられます。


5.ツールはチートなのか

 前述の通りツールには2種類あり、そのうち問題視される事が多いのは、意図的に異常な動作を起こして、プレーヤーに有利な状況を作ろうとするものです。そういったツールを使用することは、チートと呼ばれることがあります。オンラインゲームでのチートはゲームの運営に支障をきたし、ときに損害を発生させます。googleで「ゲーム チート」と検索すると、なんと警視庁の「チート行為はやめましょう!」というページ(7)が見つかります。チートに関する様々な意見を見るに、「オンライン」「対戦」という条件が揃うとき、特に問題視されることが多いようでした。東方STGに関しても同様に、間接的であれオンラインで対戦形式を作るときに、チートが問題になると考えられます。個々のツールがチートであるか否かは、ルールに明記されていればその記載の通りであり、ルールが無ければ判断のしようがありません。STGに限らず全体的な傾向として、プレーヤーにとって有利にはたらくツールや、ゲーム自体の起動・進行が阻害されるツールはチートと判断されやすいと考えます。前述したもう1種類のツール、すなわち正常に動かないゲームを正常に近い形で動かそうとするツールは、環境によってチート扱いされるかもしれませんが、使用することでプレーヤーが有利にならないためチート扱いされづらいものと思われます。先に参照した東方のツールが列挙されているサイトを参照し、各々のツールがどちらに分類されるかを考えてみるのは面白いですね。

 1人だけで黙々とゲームを遊ぶならばチートであるか否かは誰にも問われませんが、インターネットや対面でゲームを通じて他者と関わるときは、自分の使うツールがチートに該当しないかを確認するのが良いでしょう。最善の方法は、ツールを使わないことです。ツールを使わず正常動作でゲームを遊ぶ人が、チートの濡れ衣を着せられることはありません。


6.おわりに

 狩野は様々な同人イベントに参加して、個人制作のイラストやグッズ、ゲーム等を購入しています。そのいずれも自分にとって大切な作品です。無論自分で傷つけることはありませんが、意図せず傷がつくことの無いように大事に保管しています。形有るものが経年劣化して壊れるのは仕方ありませんが、大切な作品はオリジナルの状態のまま保存しておきたいものです。PC上のプログラムは、手に取れる形を持ちません。プログラムを改造・改変しても、データが入っていたディスクの見た目は変わりませんし、データを元に戻したり削除したりすれば変化の形跡は残りません。しかし素晴らしい作品を生み出したクリエイターに思いを馳せると、自分が作ったものが全く違う有様になって広がることを、喜ばしくは感じないだろうと思います。ですから狩野はどのような作品もオリジナルの状態を保って、その魅力を享受することにしています。皆さんも、自分にとって価値あるものを大切にできるといいですね。ではまた。


参考URL

(1) https://touhouworldcup.com/

(2) https://eientei.boards.net/

(3) https://maribelhearn.com/

(4) https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/10387.html

(5) https://www.bbc.com/news/world-europe-19349921

(6) https://www.afpbb.com/articles/-/2963272

(7) https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/cyber/notes/cheat.html


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